ほめパラ!

見たもの聞いたもの。好きな人たちのことを褒めたい人です。

NHK「漫才祭り 東西お笑い合戦」

※以前別の場所で書いたものを、書き直して転載しました。

 

NHK大阪で放送されているネタ番組阿佐ヶ谷姉妹が出演。司会は西川きよしさんと月亭八方さん。

オール阪神・巨人さん、ハイヒールさん、なすなかにしさんの漫才が披露されたほか、芸歴10年目、15年目、20年目の東西の芸人が、バトル形式で漫才を披露した後に、ハイヒールさんにお悩み相談をするという企画コーナーあり。

阿佐ヶ谷姉妹は芸歴15年目の東軍メンバーとして登場。M-1の3回戦でやったネタ「汚れた手が洗えない」を披露。

観客は公開収録の無料観覧に応募して当選した人たちで、笑いどころが独特だなと感じました。パンプキンポテトフライが、びっくりするくらいウケてなくて、こんなことある???とテレビで見ていて戸惑ってしまいました。阿佐ヶ谷姉妹は、つかみの『天体観測』で、まずは安定して笑いをとっていました。

「知らない」「分からない」の壁というのはすごく大きいんだと思っています。

お笑いに限らず、どんなものでも同じだと思うのですが、お客さんに「良いもの」と認識してもらって、はじめて売れるわけで、その「良さ」を伝えて、理解してもらう必要があるのですが、人は、なかなか知ろうとしないし、分かろうともしないものなのです。

その点、阿佐ヶ谷姉妹は、2020年以降のレギュラー番組の増加で、お茶の間に完全に浸透したことで、「知らない」の壁が、随分と低くなっているかもしれないですね。

ピンクのドレスを着たおかっぱメガネの2人組が、『天体観測』のつかみをするのを「テレビで見たことある!うわぁ!ホンモノだ!歌うまい!」と思えば、自然と拍手も起きるし、テンションも上がるに決まっています。

私が阿佐ヶ谷姉妹を見始めた2019年末には、既に、この地点に、たどり着いておられたとは思うのですが、年々、この、観客にとって「知ってる人」であることのアドバンテージが大きくなっているような気がしています。

今回、特に、中盤から後半に向かって、ドカンドカンと笑いが起こっていて、本当にすごかったです。最後の部分で、ドカンとウケて拍手笑いまで起きていたのは、阿佐ヶ谷姉妹の強みである歌ネタを取り入れた部分で、「歌って踊れるおばさん」の面白さが全開になっていました。この漫才、歌い終わった後に、もう一回、ボケがあって、江里子さんの「いい加減になさい」が、本当に「いい加減になさい」になっているのが、大好きなんですが、今回、そこも、しっかりウケていました。

そして、ラストの歌って踊る部分ほどではありませんでしたが、吉祥寺のメンチカツの説明でも、ドカンと爆笑が起こっていました。この部分は、9月のライブで新ネタとして下ろしてから、M-1の3回戦までにも、すごく分かりやすく改変されていて、それだけでも感動したのですが、今回、さらに説明とジェスチャーが面白くなっていたように思いました。面白さが細部に宿っている感じです。一度も見たことがないのに、吉祥寺のその風景が脳裏に浮かんでくるようで、それを一生懸命、ジェスチャーで図示しながら説明する江里子さんの熱量と相まって、とても面白いところです。

そういえば、ラジオやテレビでも、阿佐ヶ谷姉妹は、いつも、半径500メートルくらいの本当に身近なことを話題にすることが多いです。そして、これが、なぜか「内輪ネタ」に感じられないのが不思議なところなのです。もちろん「俺たちは何の話を聞かされているんだ」とは思うのですが、そのこと自体がなんだか面白くて、クスッと笑ってしまうし、なんだか、温かい気持ちが残るのです。

この吉祥寺のメンチカツのくだりは、そんな、いつもの阿佐ヶ谷姉妹トークが持ち合わせている唯一無二の面白さと同じものを感じます。今回、江里子さんが、吉祥寺についてすごい熱量で喋りまくった後に「何の話してるのよ〜!」とみほさんを叩いたところで、会場でもドカンと笑いが起こっていました。

大阪でも、この面白さが通じているのがすごいところです。阿佐ヶ谷姉妹が、身近なところにフォーカスすればするほど、逆に、それが普遍的なものに見えてくる。それは、テレビ番組『阿佐ヶ谷ワイド!!』を見ていて、いつも感じていることなのですが、この不思議な能力も、今回のネタでは、存分に発揮されているかもしれません。

今回は、さらに、大阪バージョンということで、新大阪駅の豚まんの行列の話を新たに入れてきて、さらに大きな笑いを起こしていたのもすごいなと思いました。江里子さんがジェスチャーで示していた新大阪駅の豚まんの店の前の行列の描写は見事で、私も、これは実際に見たことのある風景だったので、テレビの前で大爆笑しました。本当に面白かったです。

ちなみに、地方でネタを披露する時には、その土地のものを入れるようにしているのでしょうか。

というのも、かつて、モニタリングという番組で、阿佐ヶ谷姉妹が山形のイベントに呼ばれたところ、自分たちの偽物に遭遇し、偽物に偽物扱いされるというドッキリがありました。その時、その「偽阿佐ヶ谷姉妹」が披露したネタに「たまこんにゃく」という土地の名産品が入っていたのですが、それを見た本物の阿佐ヶ谷姉妹が「勉強になったのは、地元の方に根ざすネタをしなきゃダメだなということ。地元のネタをどんどん入れていかなきゃいけない。」と話していたのです。真面目過ぎて面白い人たちだなと思ったのを覚えています。もし、あれからずっと、営業などで地方に行くたびに、その土地のものをネタに盛り込んでいたのなら、その律儀さに感動すると同時に、やっぱりちょっと面白いなと思います。

というわけで、西軍の吉田たちとの対決の結果は、きよし師匠とハイヒールのお二人が阿佐ヶ谷姉妹に投票し、3対1で勝利。ちょっと前なら、江里子さん、感動して泣いていたかもしれないなと妄想しましたが、今回は、喜びつつも、とても落ち着いた様子で、穏やかできれいな笑顔を見せておられました。

講評で、モモコさんが「お年召してはるのにがんばってはるなぁ」とボケて、リンゴさんがすかさず「お年召して言うな!あんたの方が召してるわ!」とツッコみ、阿佐ヶ谷姉妹が「コラコラ」と「おばさんの怒り方」で返すのも、すごく楽しい「じゃれ合い」だなと思いました。

そんなリンゴさんも、後の企画では「前よりちょっとドレスも大きくなってる」と、ちょっぴり姉妹の体型いじりをしていました。リンゴさんの後輩いじりは、なんだかわざと悪いことして叱られに行っているイタズラッ子みたいな印象もあって、実際、いつも後輩たちに「コラー!」って叱られてて楽しいのです。なので、自分の好きな阿佐ヶ谷姉妹が、同じように、リンゴさんに絡まれているのは、ちょっと嬉しく感じました。

そして、阿佐ヶ谷姉妹も、先輩たちと絡んでいる間、ずっと楽しそうな笑顔を見せていて、テレビ画面からは、すっとハッピーな空気があふれ出ているようでした。ハイヒールさんの軽やかさと、阿佐ヶ谷姉妹の健やかさがあっての、楽しい時間でした。

この体型いじりのくだりがあったのは、漫才対決の後の、ハイヒールさんのお悩み相談企画だったのですが、「相方との関係」「スベった時にどうしたらいい」「華がない」「漫才で一番大切にしていること」など、割とガチ目の相談内容ばかりで、かなり聞き応えがありました。ハイヒールさんや、きよし師匠から、たくさんの名言が聴けて、得した気分になりました。

「お客さん全然笑わないし、もう今日はあかんと思ったら相方笑わせようと思ってボケる」というモモコさんのお話は「諦めながらも諦めない」ための具体的な処方箋かなと思いました。私たち一般人も、うまくいかない時には、一旦、一番身近な人を喜ばせることに、意識をフォーカスしてみるといいのかもしれないなと考えたりしました。

きよし師匠のお話もアツかったです。やすし・きよしの漫才は、他の売れている人の漫才をできるだけたくさん見て、どうやって笑わせているか観察してメモをひたすら取って、「それを、全部素材としてミキサーに入れてミックスジュースにして、やすし・きよしの味を作り上げていった」という話が無茶苦茶アツかったです。「やすし師匠もですか?」と思わず尋ねた岩橋さん、私も同じことを思いました。天才と言われた人も、コツコツと地道な努力を重ねていたというエピソードは、心に強く響きました。