テレビ東京「ゴッドタン」で2021年11月27日深夜に放送された「第9回私の落とし方発表会」
今回も、この企画の「大女優兼巨匠」である「江里子先生*1」こと阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんが、とても素敵な自作自演の恋物語を見せてくれました!
見れば見るほど味わい深い「渡辺江里子ドラマ」
私なりに見て、感じたこと考えたことを、書き留めておきたいと思います。
まだ見ていない方は、見逃し配信をぜひ!
無料で見られたTVerでの配信は、2021年12月4日深夜に終わってしまいました。
有料サービスになりますが、Paraviではまだ、見逃し配信を見ることができますので、ご案内しておきます。
※2022/1/11現在の情報です。リンク先の情報やサービスについては一切の責任を持ちませんので、ご自身でご確認の上、ご利用下さい。
あらすじは、テレビ東京のサイトをご覧ください。
それでは、ネタバレを、かなり含んでしまいますが、私が、いいな、好きだなって思ったところを書きとめていきますね。
ドラマティックな展開に驚いた!
昨年の「第8回私の落とし方発表会」で、かなりの衝撃を受けた、江里子先生による物語の仕掛け。
asagayashimai-fan.hatenablog.com
今回も、すっかりやられてしまいました!
どこから見ても「普通の主婦」という姿形の江里子。そして、逢瀬の前に左手の薬指から外される指輪。始まる前のMC陣とエリコさんとのやりとりで「禁断のテーマ」という情報を与えられた上での、この始まり方でしたので、簡単に「不倫」という方向に誘導されてしまいました。
不倫の物語を見ているつもりでいたのに、江里子の「もう来てるじゃないの……」というセリフを起点として、どんどん深まる謎。「どういうこと?」「どうなっちゃうの?」と翻弄される中、過去の一場面がインサートされた瞬間、「実はこういうことだったのか!」……と!!
思い込まされていた展開を裏切られ、様々な伏線が美しく回収される気持ちよさ。いくら考えても解けなかった問題が、補助線を一本引くことで鮮やかに解決するような、エレガントなストーリーテリングでした。(それっぽく言ってみるなど←)
それから、これは、他の方と感想を言い合っている時に気が付いたのですが、今回は、アキオにプロポーズされた江里子が、自宅に一人で帰ってきたシーンで、もう一つ、ミスリードさせられるような仕掛けがあったかもしれません。
飾ってある写真を眺める江里子。そこにはウェディングドレスを着て微笑む江里子とアキオの姿が写っています。江里子は、とても悲しそうな、寂しそうな表情で、DREAMS COME TRUEの「やさしいキスをして」の一節を口ずさみます。
「どうなっちゃうの?」と、物語の行方が想像できない中での、このセリフの無い時間は、実際以上に長く感じられ、その間、頭の中では、様々な思考の断片が浮かんでは消えました。
視聴者の中には、前回の「落とし方発表会」のことを思い出して、「ひょっとしてアキオは死んでいるのだろうか?」と、また、結末とは違う方向に誘導された方もいたかもしれません。
衝撃度、という点から行くと、昨年の落とし方発表会を初めて見た時には、思いもよらない展開に頭をぶん殴られた気持ちになったので、それと比較すれば、本作は、穏やかに受け止めることができましたが、それでもやっぱり、江里子先生の脚本には驚かされました。
8分弱という短い尺の中で、なんというドラマチックな展開を見せてくれるんでしょう!!
悲劇に気持ちよく酔わされた!
前回の「落とし方」は、死者との対話を重ねる時間と並行して、今を生きる時間が流れており、結末にも希望が示されていました。
しかし、今回の物語には、全く救いがありません。
記憶を失う病気を患っているアキオ。
2人の時間は7日でリセットされ、アキオと江里子は出会いと別れを繰り返します。その円環の中に閉じ込められる絶望感。
出会って7日目にアキオは江里子にプロポーズをします。これは、何度目のものだったのでしょうか。「結婚してください」という言葉を受け止める江里子は嬉しそうに見えるけれども、それは「今回もやっぱりアキオさんは自分を愛してくれたんだ」という安堵の表情なのかもしれません。
そしてその直後の「明日、ここで待ってます」というアキオの言葉。二人には「明日」なんて存在しないのに。それを知っている江里子の「もう来てるじゃないの……」のセリフと、それを口にする表情の虚ろさが、胸を締め付けます。
ラストシーンで、二人の関係が振り出しに戻る場面が描かれたことにより、この悲劇の円環性が、より強調されています。笑顔で「はじめまして」とアキオに声をかける江里子の声色が、明るければ明るいほど、哀しげに響きます。
物語のはじまりの「3日目」で見せられた、ちょっとコミカルなやりとり。あれも何度目だったのでしょうか。
まだ出会って3日目という、ちょっとぎこちない関係性の中での、江里子の返しの不思議な落ち着きぶりが、何度も何度も、同じようなやりとりを繰り返してきたことを暗示しているようにも思えてきます。また、アキオが病気になる前の二人の楽しい結婚生活が想像できて、失われたものの大きさを思わされたりもします。アキオは、朗らかで優しくお茶目な江里子に何度も出会い、何度も恋に落ちるのです。そして、結ばれる前にまた消えてしまう。江里子はアキオを失い続ける。
妄想が止まりませんね。。
江里子先生の描く悲劇にすっかり酔わされてしまいました。
「幸せな映画はあまり見ない。破滅的な方が好き。私、愛憎に死も絡んでこないとダメ」というみほさんは、今回の江里子先生の作品を見て、どう思われたのでしょうか。
みほさんの感想も聞いてみたいです。
セリフの奥行がすごい!
「落とし方発表会」で披露される江里子先生の脚本の特徴の一つは「すべてを語らない」ことなのかな、と思っています。
短い台詞の余白に浮かび上がってくる、主人公の人柄、過去、今の暮らしぶりや人間関係など、心の中で、いくつもの物語が重層的に立ち上がってくるようで、見るほどに、味わいが増すように思うのです。
今回は、特に、江里子の「あなたが好き」というセリフの奥行がすごいな、と感じました。
先生にしては、珍しくストレートなセリフを江里子に言わせたなぁ、と思っていたら、その「らしくない」性急さには、必然性があったのですよね。
二人には、回りくどいことをしている時間は無いのです。江里子は、今すぐに、自分の気持ちを伝えて、アキオの気持ちを確かめないといけない。
そして、穏やかで優しさにあふれる表情で「あなたが好き」と言うエリコさんの演技も味わい深いです。アキオの「僕も」という言葉を受けとめる幸せそうな表情にも心をキュッと掴まれます。
でも、こうして、好きな人が目の前にいて、好きと言えること、好きと言ってもらえることの幸せが表現されるほどに、それが、刹那に消えゆくものであることの哀しさが増していくのです。
江里子先生は、これまでの作品で敢えて避けてきた「好き」というセリフを、今回敢えて扱ったとのことですが、このセリフの奥行きと複雑な味わいには、先生の「敢えて」のこだわりを強く感じました。
歌詞に誘われる妄想、大人の恋物語
感染防止対策のため、ソーシャルディスタンスを保っての収録であったという制約もあったと思うのですが、今回の物語で、江里子とアキオは常に離れた場所に設置されたベンチに腰掛けて会話をしており、二人が触れ合うことはありませんでした。
こんな、劇中では描かれることがなかった二人の身体的な触れ合いが、江里子が歌うこの歌の歌詞に託されているようで、妄想が膨らみました。
「今日という一日が終わるときにそばにいられたら明日なんていらない」
今を燃やし尽くすような激しさが表現された歌詞。
この歌を歌いながら、サボテンと写真のアキオをやさしく撫でる江里子の指先の動きは、少しばかりエロティックにも見えて、その前にあったかもしれない出来事の余韻のようにも感じられてしまったのですよね。。
放送後に、エリコさんがTwitterを更新されました。
「ゴッドタン」 #私の落とし方発表会
— 阿佐ヶ谷姉妹 ワタナベエリコ (@asagayanoane) 2021年11月27日
今迄避けてきた「不倫」や「好き」を敢えて扱ってみましたが…背伸びしすぎたかも!落ちるってムズいわ〜
アキオ役の米村亮太朗さんのお上手さに頼りっ放し。医師役野口雄介さんや敏腕スタッフさんにまとめて頂き感謝です。吉住さん格好よすぎ!大島さん流石すぎ! pic.twitter.com/suRa4KGzsU
「背伸び」とエリコさんは仰っていますが、私としては、「のほほん」が売りの「阿佐ヶ谷姉妹」のエリコさんが、キャラクターを損なわずに書けるギリギリのところで、見事に大人の恋愛を描いたようにも感じました。
とても上品で美しく素敵な描写だと思いますが、私の妄想がひどいだけでしょうか。
エリコさんへ。多忙な中での新作リリースに感謝!
2021年の阿佐ヶ谷姉妹は、本当に忙しかったと思います。
2020年から始まった、ゴールデンラジオ、お困りでしたら、水曜ヒルナンデスの3つのレギュラー番組に加えて、2021年1月からは、静岡第一テレビの帯番組「まるごと」内で放送のロケ番組「あさがや手帖」を週1レギュラーで担当。単発でのバラエティ番組への出演も、私がファンになった2019年11月には、既に多かったように思いますが、この1年でさらに増えたように思います。
そして、そんなテレビ・ラジオ出演の合間をぬってのM-1への参戦。
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M-1の振り返りは、ぜひ、別エントリでしたいと思っているのですが、ファンとしては、心の底から「阿佐ヶ谷姉妹!あなたたちを好きでよかった!!」と思うような、カッコいい戦いぶりを見せていただきました。あの漫才を仕上げるまでに、どれだけのエネルギーを費やしてきたことでしょう。同年代として、そのスタミナと枯れることのない情熱には、敬意を捧げるしかありません。魂燃やしてお笑いしてましたね!モニターのこちら側まで届いてましたよ!
そんな中での、この「落とし方発表会」の脚本執筆。そして収録の準備。どれだけ大変だったことでしょう。ちゃんと心身休める時間はあったのでしょうか。。と、諸々の憶測をふまえて、まずは、エリコさんが、この「落とし方発表会」のお仕事を受けてくださって、一年間、新作の発表を待ち続けていた私たちファンへ届けてくださったことに、心から感謝したいです。
エリコさん、本当に本当にありがとうございました!
新作が見られて、本当に本当に幸せでした!!!
ゴッドタンのスタッフさんへ。この企画を続けてくれてありがとう!
エリコさんも放映後のツイートで「敏腕スタッフさんにまとめて頂き感謝」って仰ってますが、おそらく、この企画、ゴッドタンの愛あるスタッフさんのサポートなしにはありえなかったのかもしれないなと、今のエリコさんの多忙ぶりを踏まえると、どうしても、憶測が働いてしまうのです。
今回の江里子先生の落とし方。正直、設定については綻びがあったかな。。と思うところはあります。アキオは今どこにいるのかとか。婚姻関係はどうなったんだろうとか。アキオの記憶の失われる部分と失われない部分とか。
でも。「細けぇことはどうでもいいのよ!」と叫びたくなるほどに、今回の江里子先生の作品には、楽しませていただいたのです。素敵だったし面白かった。だから、エリコさんがツイートしたとおり、「まとめ方」が優れていたという面はあったのかもしれないなと思ったりしています。わからないけど。とにかく、感謝の気持ちでいっぱいです。
やりたいようにやっている江里子先生を、MC陣は「先生、ルールは守りましょうね(笑)」なんて弄ってましたが、見ている者からしたら全く違和感ありませんでした。
それは、大島さんのお色気含みの軽やかな脚本で楽しく笑えた1本目から、持ち味である緻密な構成と高い演技力で正統派の落とし方を見せてくれた吉住さんの2本目という流れがあっての3本目ということで、江里子先生が「落とし方」の枠組をはみ出ても、もはや、既定路線にしか感じなかったからだと思っています。
「落とし方」という枠組自体を破壊しながら、全力で面白いものを作り「すごすぎて笑っちゃう」クオリティの高さを更新し続ける江里子先生。そんな近年の巨匠の姿勢を受け、ついに「渡辺江里子ドラマ」とテロップを出したスタッフさん。全てが、最高でした。ゴッドタンという番組自体の構成が素晴らしかった。
エリコさんは好き放題やるほど輝くし面白いなーと、落ちてからずっと、私は思っているのですが、それを、一番強く感じさせてくれるのがこの「私の落とし方発表会」なのです。この企画が、ずっと続いてくれることを願います。
いつも、エリコさんの魅力を上手に見せてくれるゴッドタンのスタッフさんに、心から感謝です。来年もぜひ、江里子先生の新作をお願いします!!!
本日の妄想は以上です。